2022年6月施行の改正特定商取引法について。ECサイト事業者は何をしなければならない?
今回は、2022年6月1日から施行となった改正特定商取引法の注意点について解説しておきます。
特定商取引法は、これまでも改正を繰り返してきていますが、今回の改正については、ECサイトを運営している事業者様にとっても確認しなければならないポイントが多いので、ぜひ最後まで確認しておきましょう。2022年6月に施行された改正特定商取引法では、ECサイトから受ける注文について、注文確定直前の最終確認画面などで、注文した消費者が販売価格や支払時期、返品方法など6項目について、簡単に確認できるような表示をしなければならないと決められたのです。
この記事では、今回の改正について、どのような点を改善しなければいけないのかいまいち分からない…という方のため、EC事業者様が押さえておくべき注意点をご紹介します。
特定商取引法(特商法)について
ECサイトを運営している事業者であれば、特定商取引法、いわゆる『特商法』という法律の存在は知っていると思います。消費者庁によると、この法律は、「事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする」とされており、要は、消費者トラブルが起きやすい取引を対象として、事業者側が守らなければならないルールと、消費者を守るためのルールを定めているのです。
ちなみに、特定商取引法の対象となる「消費者トラブルが起きやすい取引」については、以下のようなものがあげられています。
- ・訪問販売
- ・通信販売(ECサイトなど)
- ・電話勧誘販売
- ・連鎖販売取引(マルチ商法など)
- ・特定継続的役務提供(エステ・語学教室など)
- ・業務提供誘引販売取引(内職商法・サイドビジネス商法など)
- ・訪問購入
参考:特定商取引法ガイドより
特商法の対象となる取引類型は上記のようなものです。
なお、特商法は、過去に何度も改正を繰り返してきているのですが、直近の改正が冒頭でご紹介したように2022年6月1日となります。
今回の改正については、ECサイトなどで横行していると言われる悪質な定期販売の勧誘を防ぐ為というのがメインとなるようです。例えば、「初回無料」や「お試し」と記載されていることから決済手続きを行ったのに、実際には定期購入が条件となっていた…、「いつでも解約可能」と記載されているのに、実際には解約するのにさまざまな条件が付けられていたなど、「詐欺的な定期購入商法」が社会問題になっていることから、これに対応するため、特商法が改正されることになったわけです。
なお、2022年6月に改正された特商法の文面を確認したい方は、以下の消費者庁の専用ページでご確認ください。
> 消費者庁「令和3年特定商取引法・預託法の改正について」
改正特定商取引法でEC事業者に求められること
それでは、2022年6月から施行された改正特商法について、EC事業者などが押さえておかなければならないポイントについて解説していきましょう。今回の特商法の改正により、カタログ・チラシなどを用いた通信販売の申込書面や、ECサイトなどを利用する場合は、その注文確定直前の最終確認画面などで、消費者が誤認しないよう以下の6つの条件を明記するように求められることになりました。
- ・分量
- ・販売価格・対価
- ・支払いの時期・方法
- ・引渡・提供時期
- ・申込の撤回、解除に関すること
- ・申込期間(期限がある場合)
なお、上記の項目は最終画面上に全てを網羅的に表示することが求められています。ただ、モバイル端末が普及した現在では、消費者が使用する端末によっては、上記すべてを網羅的に表示することで、逆に見づらくなったりすることがありますし、また商品ごとに販売条件が異なることから、全てを記載すると余計に分かりにくくなったりする可能性があります。
そのため、そのような時には、消費者が明確に認識できることを条件として、対象となる表示事項・参照箇所、参照方法を明示することで、参照させる形式も認められています。
参考:事業者向けチラシ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」
それでは、上述した6つの項目について、それぞれをもう少し詳しくご紹介しておきましょう。
分量
まずは「分量」という項目です。消費者庁が事業者のために配布しているチラシでは、以下のように説明されています。
商品の数量、役務の提供回数等のほか、定期購入契約の場合は各回の分量も表示
引用:事業者向けチラシ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」
この項目は、分かりやすく言うと、商品やサービスに応じて、数量・回数・期間などを分かりやすく明示するようにという意味です。例えば、定期購入契約になるのであれば、1回あたりの分量と総分量・引き渡しの回数などの表示が必要になります。最近では、さまざまなサブスクリプションサービスが登場していますが、この場合でも、サービスの提供期間と期間内に利用可能な回数などがあるのであれば、その内容を明示する必要があります。さらに、サービスの契約期間について、無期限や自動更新などの条件があるのであれば、その旨も明記してください。
ちなみに、無期限の場合など、分量の表示方法に迷うケースがあると思うのですが、この場合、一定期間を区切って、その時の分量を目安として表示するのが望ましいとされています。
販売価格・対価
次は「販売価格・対価」です。消費者庁では以下のように解説しています。
複数商品を購入する顧客に対しては支払総額も表示し、定期購入契約の場合は2回目以降の代金も表示
引用:事業者向けチラシ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」
この項目は、個々の商品について、送料などを含むそれぞれの販売価格に加えて支払総額を表示するようにという意味です。また、定期購入契約の場合、各回の代金と代金総額を表示する必要があります。
サブスクリプションサービスの場合、自動的に無償契約から有償契約に移行するといったケースがありますが、この場合は、移行時期と支払うこととなる金額を明示しましょう。なお、無期限のサービスで、総額が判明しないという場合、一定期間を区切った支払額を目安として表示する事が望ましいとされています。
支払いの時期・方法
次は「支払いの時期・方法」です。
定期購入契約の場合は各回の請求時期も表示
引用:事業者向けチラシ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」
消費者庁のチラシには「定期購入契約の場合は各回の請求時期も表示」と紹介されています。
この他にも、ECサイトでの支払いは、銀行振り込みやクレジット、代金引換などのほか、金融機関・コンビニなどで振り込みをするなど、さまざまな手段が用意されているケースが多いです。そしてこのような場合、「前払いか後払いのいずれか?」、また「いつまでに支払いを済ませる必要があるか?」を明示する必要があります。
引渡・提供時期
定期購入やサブスクリプションサービスにおける消費者トラブルについて、商品の引渡しやサービスの提供時期を消費者が誤認していることで起きてしまうケースが多いです。そのため、改正特商法では、以下のように求めています。
定期購入契約の場合は次回分の発送時期等についても表示(顧客との解約手続の関係上)
引用:事業者向けチラシ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」
ECサイトについては、商品の配送方法などにより引渡時期が左右されてしまうこともあるでしょう。したがって、そのような場合には、事業者の発送日や見込み、または配送日時の指定がある場合は、その日時を示すようにしましょう。定期購入の場合は、各回の商品について、それぞれの引渡し時期を明示しておくようにしましょう。
申込の撤回、解除に関すること
次は「申込の撤回、解除に関すること」についてです。要はキャンセルに関して何らかの条件をつける場合の表示に関してといったことです。
返品や解約の連絡方法・連絡先、返品や解約の条件等について、顧客が見つけやすい位置に表示
引用:事業者向けチラシ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」
上記のように、消費者が返品や解約を申し出たいと考えた時について、キャンセルするための条件や方法、効果などをきちんと購入前に消費者が確認できるように表示しましょうという意味です。例えば、解約の申出に期限がある場合はその期限を、解約時に違約金など、消費者に不利益が生じる可能性がある場合は、その内容をきちんと分かりやすい位置に示す必要があります。
なお、申し込みの撤回や解除をする方法について、消費者の権利を不当に制限するような内容になっている場合、その条件は消費者契約法などにより無効になる場合もあるので注意してください。これは、カートの確認ページなどに記載していたとしても同じです。この辺りは、消費者庁が公開している動画で詳しく説明されていますので、以下を動画を確認してみましょう。
申込期間(期限がある場合)
最後は、申込期間についてです。消費者庁にチラシでは以下のように解説されています。
季節商品のほか、販売期間を決めて期間限定販売を行う場合は、その申込み期限を明示
引用:事業者向けチラシ「貴社カートシステムでの改正法への対応について」
これは、街中でもよく見かける「永遠に終わらない閉店セール」など、消費者を誤認させるような手法を防止するためのものと考えてください。要は、商品の販売などについて、申込期間を設定する場合、申込期間が設定されていることや具体的な期間をきちんと記載しなければいけません。なお、期限については「今だけ!」といった曖昧な表現ではなく、「〇年〇月〇日まで」といった感じに明確にしなければいけません。
他にも、タイムセールを謳っているの、その期間が過ぎても同じ価格、条件で販売されているといった方法も不法表示になる恐れがあるので注意してください。
改正特商法により「消費者を誤認させる表示」が禁止!
2022年6月から施行されている改正特商法では、消費者を誤認させる表示が禁止されています。ここでは、どのような行為が「消費者を誤認させる」と認定されるのかをいくつかの事例を挙げてご紹介しておきます。
①申込内容について「有償である」ことが分かりにくいケース
引用:消費者庁「特定商取引の改正について」
一つ目は、申込内容について、それが本来有償契約の申し込みなのに、あたかも無償プレゼントなどへの申し込みを装っているというケースです。改正特商法では、「有償契約の申込である」ということが分かりにくい表示を禁止しています。
例えば、定期購入契約をさせる時には、定期購入であることと、金額、契約期間などについて、消費者がきちんと認識できるように表示し、誤認させないようにしなければならないのです。
上の画像は、消費者庁が「問題となる表示の具体例」として紹介しているものです。上の事例で言うと、初回無料を強調していますが、実は5回分の定期購入を条件に、初回無料となっています。そして、契約内容については、注意書きを読まなければ分からないなど、消費者の誤認をさせてしまう可能性が高いですね。こういった表示は、改正特商法で禁止されています。
②誤認させるような文字サイズや色
引用:消費者庁資料より
改正特商法では、消費者がさまざまな条件を明確に認識できるかどうかを重視しています。例えば、文字のサイズが小さい、色の問題で文字が見づらい、表示位置が不適切など、消費者を誤認させてしまうような手法は禁止されます。
具体的には、定期購入申し込みの際、目立つ位置に「お試し」や「いつでも解約可能」といった言葉を掲載しており、その実、注意事項部分に小さなサイズの文字で解約の条件を記載するといった手法は良く利用されていましたね。こういった消費者の誤認を招くような手法については、今回の特商法の改正により禁止されることになりました。
なお、消費者を誤認させるかどうかについては、「その表示事項の表示それ自体並びにこれらが記載されている表示の位置、形式、大きさ及び色調等を総合的に考慮して判断」と説明されています。
契約の撤回・解除を妨げる不実の告知の禁止
「不実の告知」とは、事業者が消費者と契約する際、重要事項などについて事実とは異なることを説明することを指しています。そして、改正特商法では、この「不実の告知」が禁止されています。
なお、重要事項については、以下のような項目になります。
- ・申し込みの撤回・解除に関する事項
- ・契約の締結を必要とする事情に関する事項
これだけでは少し分かりにくいと思いますので、簡単に具体例を挙げてみましょう。
- ・消費者からの解約申出について、定期購入契約になっているから、残りの代金を支払ってもらわないと解約できないなどと嘘を伝える
- ・途中で使用を中止すると、逆効果になってしまうなどと嘘を伝える
なお、上記のような「不実の告知」については、電話などの口頭で伝達するのはもちろんのこと、電子メールなどを用いて不実の内容を送信する行為も当てはまります。
取消権が創設された
改正特商法では、消費者が違反する表示によって誤認してしまい、それによって契約を決意したというケースにおいては、「消費者は申込みの意思表示を取り消すことが可能」という『取消権』が創設されています。
取消権については、以下のような状況に陥った場合、消費者側は契約の取り消しが可能としています。
- ・不実の表示(第12条の6第1項違反)
⇒その表示が事実であると誤認した場合 - ・表示をしない(第12条の6第1項違反)
⇒表示されていない事項が存在しないと誤認した場合 - ・申込みに関して誤認させるような表示(第12条の6第2項違反)
⇒書面の送付・情報の送信が申込みとならないと誤認した場合 - ・表示事項について誤認させるような表示(第12条の6第2項違反)
⇒表示事項(分量、価格等)について誤認した場合
特商法に違反した場合の罰則について
特商法では、表示違反や不実の告知があった場合、消費者に取消権を与えるだけでなく、行政処分や罰則を用意しています。また、違反行為は適格消費者団体による差止請求の対象にもなります。
特商法に違反した場合の罰則は、以下のようになっていますので、注意してください。
引用:消費者庁資料より
電磁的記録によるクーリング・オフの導入
2022年6月に施行された改正特商法以前では、消費者がクーリング・オフを申し出る際には、「書面」(紙媒体)により行うこととされており、書面を発した時にその効力が生じるとされていました。これが、特商法の改正以降は、書面だけではなく電子メールやUSBメモリなどの電磁的記録によりクーリング・オフを申し出ることが可能になっています。ちなみに、電磁的記録による通知についても、書面と同様、発した時にその効力を生ずるとされています。
これにより、事業者は、契約書面などに「書面又は電磁的記録により」クーリング・オフができる旨を記載しなければならないとされています。また、クーリング・オフについては、合理的な範囲内で電磁的記録による通知の方法を特定し、契約書面などに記載するようにしましょう。例えば、
[E-mail]~~~~@~~.jp
上記のような感じに、事業者自身が確認しやすい電磁的記録による通知方法を示すのが良いでしょう。
なお、一方的に通知の方法を不合理なものに限定することは、クーリング・オフの方法を制限する消費者に不利な特約に該当し、無効となるものと考えられるので注意してください。具体的には、以下のような方法は、禁止だと考えておきましょう。
- ・電子メールでアポイントを取るような訪問販売においてクーリング・オフを書面のみに限定し、電子メールによる通知を受け付けない
- ・契約締結に際して消費者から事業者に対する連絡手段としてSNSを用いたにもかかわらず当該SNSを用いたクーリング・オフの通知を受け付けない
クーリング・オフを受け付けた場合には、クーリング・オフを受け付けた旨を消費者に連絡することで、余計なトラブルを防ぐことが可能だと思います。
まとめ
今回は、2022年6月に施行された改正特定商取引法についてご紹介してきました。特定商取引法は、過去に何度も改正が繰り返されていますが、今回の改正は、EC事業者が注意しなければならないポイントが非常に多いので、その内容については、きちんと押さえておかなければならないでしょう。
特にECサイトに関しては、注文確定直前の画面に、消費者が誤認しないような表示をいくつも出さなければならなくなっていますので、ページデザインなどを丸々変更しなければならないケースもあるのです。この記事でご紹介しているように、特商法に違反した場合には、厳しい罰則なども用意されていますので、今一度、特商法のどの部分が改正され、自分たちは何をしなくてはならないかを確認してみると良いのではないでしょうか?